めだかの学校 よもやま話 第4話( 2021-9-05)

 ― 野草料理はおいしくて面白い? ―

 平成4年4月1日、私の新しい生活が始まる「いなさ自然休養村 野草料理の店“つみくさ”」。
 ―外は強い雨と風に翻弄される桜の花びら…。裏口から厨房を通ってロビーに入ると、なんだこれは? かび臭と醤油の臭い! ロビーに2m四方ほどの四角な火鉢形式のテーブルと、丸太を切った椅子が居座っている。そのあたりから臭ってくる。建物そのものはリフォームされている。4月4日にはリニューアルオープンする。取り敢えず事務室へ。時計を見れば9時少し前。引佐町役場へ電話を入れる。ほどなくして商工観光課長の永田課長と担当職員の小林さんが来てくれた。「こんな雨なので戸田昭朗社長やパートのおばさんたちは明日からにしてもらった」とのこと。私はほとんど内容を把握してないので、色々と説明していただいた。パートのおばさんたちは以前から準備作業をしていたようなので、それなりの形はできているようだ。なにはともあれ明日全員が揃うので色々なことが分かるだろう。ロビーに漂う強烈な臭いを聞けば、テーブルに使用した板は醤油の廃樽を利用したものだ、とのこと。納得!当分の間は窓という窓は開けて換気が必要だと思った。食事処の和室にはまだ新しい畳は入っておらず、3日までには間に合わせる、とのこと。
 あれ? 昼食と夕食はどうしたっけかな? ただ夜はシーン… ひとっこひとり通らず…。
 翌2日には雨もあがり、砂利と芝の駐車場には桜の花びらがびっしりと積もっている。9時前に社長はじめみなさんが集まり、初顔合わせのあいさつをする。そのあと永田課長から、今までの経過報告と、明日のお披露目会などの説明を受ける。私の頭の中は明日からのことよりも『草を食べる?面白そう!』の好奇心。そんな私に、戸田社長は「榊原さんのやりたいようにやればいい。お金のことも心配しなくていいよ」とおっしゃってくださった。野草料理の方は、摘み草クッキング主宰の篠原準八先生から指導を受けたおばさんたちが、ヨモギ、のびる、ユキノシタ、タンポポ、ドクダミなどをテンプラや和えものなどに調理する。私は試食という名のつまみ食い! 食材の野草は渋川の老人会の人たちがとってきてくれたものだそうだ。あとで聞いた話だが「地元出身の町長が困っているのだから協力するのは当然だ」と言ったと言う。昼食は明日のお披露目会に提供するお膳の試食を兼ねたものだった、ような気がする。夕食はどうだったかなァ~。
 夜、床に着くと、お腹がゴロゴロし始める。ウーッ、出そう! あわててトイレへ。シャーッ、何度繰り返したことか。いや~マイッタ。 明日お披露目会というのに。翌朝、起きると気分もいいし、身体も軽い。なにこれ?! 朝食も美味しく食べられた。
 いよいよお披露目会。会場の楽夢亭には、多くの人が出席してくれました。そのあいさつの中で、奥山観光協会会長の高田さん「みちくさは…みちくさは…みちくさは…」なんども間違える。(笑) おッ、これはいける、『みちくさしながら“つみくさ”へ行こう!!』 そのあと何度も使わせてもらったキャッチフレーズ。みなさんは馴れない野草料理に、「あれッ、肉は入っていないの?」「これで2000円」「草で銭とるの?」、そんな声がチラチラ聞こえてくる。
 オープンしてから10日ほど経った頃、元いた会社の人が訪ねてきてくれた。その第一声『バラさん、今まででいちばんいい顔してる!!』そう、青白かった顔に赤みが、肌はツルツル。私もびっくりしている。『もしかして野草?』 数日後、浜松市の谷島屋書店に行くと、『あった!!』 主婦の友社発行の『草を楽しむ』の本。ドキドキしながら手にとって頁をめくると、カラーの写真入りで、名称と効能と料理方法がびっしりと載っている。食べられない野草も。
 『草を楽しむと書いて薬(クスリ)という字』昔の人は凄い。私たちの足元にはいろいろな食材が、まさにそれは薬草の宝庫でもある。お客様に料理をもっていきながら、「草を楽しむと書いて薬という字。野草のてんぷらには抹茶塩をパラパラかけて召し上がってください」と。野草料理のおもしろさと美味しさを加味しながら…。「もしかして今夜『ゴロゴロシャー』になるかも」と(笑)。私の体験が生きているのである。ハイ。

 次回は”つみくさ“が動き始めました。エピソードなどを交えながら語ろうと思います。もしかしたら、あなたの名前もでてくるかもしれません。お楽しみに。コロナの収束を祈りつつ…。

事務局 言い出しっぺ 榊原幸雄

pagetop